[イラストで描く世界史人物伝] Vol.9 アルタクセルクセス1世
2020年9月13日

第9回の今回は再び古代ペルシアのアケメネス朝に戻り、サラミスの海戦の大敗から泥沼化していたペルシア戦争を終戦へ導いた、寛容なイケメン王として名高いアルタクセルクセス1世を描く。


有能な無名王
アルタクセルクセス1世は祖父のダレイオス1世や父のクセルクセス1世に比べるとあまり有名ではない。確かにダレイオス1世やクセルクセス1世がペルシア戦争によって当時のヨーロッパにもたらした絶大な影響に比べると、ヨーロッパに対する影響力は大きくない。だが、すなわちそれは無能だから無名だというわけではない。
まず彼の王としてのスタートからしてなかなかの波乱を切り抜けている。彼の父クセルクセス1世は紀元前465年に暗殺によってその王位を失う。その実行犯はクセルクセス1世の親衛隊長のアルタバノスであり、その黒幕はクセルクセス1世の長男であり、アルタクセルクセス1世の兄、ダレイオス王子とも言われる。彼はこの暗殺の実行犯アルタバノスを捉え反乱を治め、首謀者とされる兄ダレイオス王子も打ち取ったと言われる。
この様に、ただ王の息子だからと言って上から下がって来た王位を自動的に継承したわけではなく、この王位継承の流れからしても分かる通り、なかなかの機転と行動力の持ち主なのだ。
またアケメネス朝のような広大な領土をおさめる帝国では、どうしても発生してしまう各地での反乱なども彼はうまく治めている。
そして彼の一番大きな功績と言われるものが、祖父ダレイオス1世が開始し、父クセルクセス1世が泥沼化させたペルシア戦争を終わりに導いた事だ。サラミスの海戦からペルシア側に不利な流れになっていたにもかかわらず、彼はギリシア側と和平交渉を行いカリアスの和約と呼ばれる条約を結び、名誉を保ったまま50年にもわたる戦争を終結に導いている。
ペルシア戦争でかかった莫大な費用などでアケメネス朝の財政は傾き始めたと言われているが、アルタクセルクセス1世の治世でアケメネス朝は一時的に回復を見せ、安定した国家運営と秩序を手に入れたと評される。
実際、一方のギリシア各国は結局的にペルシア戦争の混乱から抜け出せずに、ギリシアの国同士て争うペロポネソス戦争に発展してしまい、疲弊していく。
その間、莫大な戦費がかかる対外戦争を自粛し、人的・経済的損失を防いだアルタクセルクセス1世の治めるアケメネス朝では国力を蓄える事ができ、後にペロポネソス戦争において影響力を行使する事が出来るようになっていくのである。
この様に、あまり祖父や父に比べ名の通っていないアルタクセルクセス1世であるが、なかなかと優れた王だったようである。
寛容にして端正な王
もう一つ彼を語るうえで欠かせないのが、その寛容さだ。
アケメネス朝は代々その統治において比較的寛容な政策をとってきており、宗教の強制や文化の破壊などは行わない事で有名であるが、彼はさらに輪をかけて寛容な王だったようだ。
特にその寛容さで有名な出来事がギリシアのテミストクレスの保護であろう。
テミストクレスなる人物は、ギリシアではレオニダス1世と並びペルシア戦争の英雄と呼ばれた男で、父クセルクセス1世がその敗北によってギリシアから手を引くきっかけとなったサラミスの海戦でギリシャ側の司令官を務めた男である。つまりペルシア側にしてみれば、このテミストクレスという人物は仇となる人物なのだ。
では何故このギリシアで英雄とされたテミストクレスなる人物がアケメネス朝で保護される事となったかというと、テミストクレスはその性格になかなか傲慢な一面があったようで、サラミスの海戦の勝利後、ギリシア国内各所で反感をどんどん買ってしまう。ついには民衆の投票により国外追放が決まり、国を追われる立場となってしまうのだ。
そんなテミストクレスは何を血迷ったのか、かつての敵国アケメネス朝ペルシアに亡命を願いでる。しかしそこは寛容なアルタクセルクセス1世。彼の亡命を快く受け入れ、さらには住居や食料などの生活の保障をし、手厚くペルシアで保護したのである。
また宗教面でも従来からの寛容政策を推し進め、ユダヤ教徒などの信教の自由の保障を徹底したという。この事から旧約聖書でも彼は良き王として描かれている。
寛容さに加え、もう一つ彼を特徴づけているのが、彼は大変端正な顔立ちであったという記録である。古代の人物の容姿に関する描写というのはあまり多くはないのであるが、彼は特にハンサムであったという記録があり、また他の容姿に関しても、彼は右手が長く「ロングハンド」と呼ばれていた等、比較的資料が残っている。
この様に、泥沼化した戦争を終結させ、内政においては安定した国家運営を行い、かつその人柄は寛容であり、また容姿端麗であったというから、世界史的にはあまり有名ではない王であるが、地元ペルシア地方では彼は結構的人気な王となっている。
今回はこの様なアルタクセルクセス1世を、整った顔ながら威厳さを持ち、寛容な心でテミストクレスに許しを与える姿をイメージして描いてみた。
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